Artist's commentary
悪役令嬢バニーさんのホールデビュー
マリエル・ヴィ・ピノワール(22)の場合
「マリエルさん、準備はよろしいですか? それではホールへご案内しますね」
「え、ええ。よろしくてよ店長」
……ふうー。い、いよいよですわね。
王宮では数えきれないほどの舞踏会を経験してまいりました。
人前に立つことなど、慣れたものです。
……この格好さえ除けば。
ホールへ足を踏み入れると、殿方たちの視線が一斉に集まりました。
「おっ、新人さん?」
「うお、やば!」
「おおーめっちゃかわいい」
ま、まあ!
なんて遠慮のない殿方たちでしょう!
王宮では、未婚の令嬢をこれほどジロジロ眺めるなど、無礼千万。
……いえ、落ち着くのです、わたくし。
ここでは、これが歓迎の作法なのでしょう。
わたくしは背筋を伸ばし、優雅に一礼。
するとホールから、おおー! 拍手と歓声が上がりました。
……ふふ。
やはり、わたくしの美貌は異国でも通用するようですわね。
「新人さん、名前なんていうの?」
「ご機嫌よう、ムッシュ。わたくし、マリエル・ヴィ・ピノワールと申します。由緒正しきピノワール公爵――」
「ぴのわーるこうしゃく??」
……はっ!!
い、いけませんわ!
わたくしは今や国外追放の身。
ここで素性が知られれば、あのクズ王子の耳に入るやもしれません!
「こ、耕作! ぶどう畑を耕作する農家の娘ですわ!」
「へえ、農家やってるんだ」
「え、ええ! それはもう、ごく庶民的な農家でしてよ!」
「そしたら今の時期、ぶどうの収穫とかするの?」
「もちろんですわ! 毎年、領民が総出で――」
「りょうみん?」
「りょ、両親! 両親が丹精込めて育てておりますの!」
「へえー大変そう」
「ええ、まったくですわ!」
……ふう。危ないところでしたわ。
けど完璧ですわね。
これで誰も、わたくしが公爵令嬢だとは思いますまい。
「それにしてもマリエルさん、めっちゃバニー似合うね」
「……うふふ。お褒めにあずかり光栄ですわ♡」
……あら。
なんだか、少し……。
悪くありませんわね。
そう、殿方たちの心を掴むことこそ、わたくしの第一歩なのです。
「ところでマリエルさんって地元どこ?」
「ええ、わたくしはピノワール公爵領の――」
「ぴのわーるこうしゃくりょう……??」
……あっ!
「ひ、日野です! 日野の甲州街道のほうですわ!」

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